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漏水リスクの高い専有部配管がなぜ長期修繕計画の対象外なの?

2023年1月7日
この記事のカテゴリー : 修繕積立金・専有部の取り扱い

マンションの給排水管で、漏水リスクが高いのは共用部ではなく、圧倒的に専有部だということをご存知でしょうか。

築年数が20年以下で、専有部内の配管が錆びない樹脂管を使っているマンションはあまり関係ないですが、築25年以上のマンションで、専有部内の配管が樹脂管でない場合、管理組合が加入している漏水保険が使われるのも専有部が原因の漏水がほとんどです。

昨年、国交省が長期修繕計画作成のガイドラインで、専有部の給排水管についても、更新時期の目途を記載したことで、専有部の給排水管の保全費用も長期修繕計画に予算計上する組合が徐々に増えてはきているようです。

とは言え、管理組合が作成する長期修繕計画で、給排水管の保全費用が予算組されるのは、ほとんどの管理組合では、まだ共用部のみというのが現状のようです。

実際の漏水は圧倒的に専有部で発生しているのに、どうして長期修繕計画では予算計上されないのでしょうか。

今回の投稿記事では、漏水リスクの高い専有部の配管がなぜ、長期修繕計画の予算として組み込まれないのかについてお話します。

管理組合のおかれた現状に合わせて、どのようにマンションの配管を保全していくべきなのかについてもお話しますので、ぜひ、最後までご覧ください。

動画

 

長期修繕計画に専有部配管の予算が計上されにくい理由

それでは、早速、長期修繕計画に専有部配管の保全費用が予算計上されにくい理由について、お話していきます。

① 管理組合の管理対象外

まず、一つ目は管理組合の管理対象外だということです。

従来のマンション管理規約では、管理組合は専有部に関して口を挟む権限はなく、修繕積立金も共用部の保全のために積み立てられるものだと定義されています。

つまり、専有部配管は、各区分所有者の責任で保全していくという考え方が主流でした。

築年数が進み、実際に漏水事故が多くなってくると、管理組合主導で専有部の配管を取替えようという動きが出ますが、管理規約はどうするのだというように、さまざまな問題も出てきます。

② 予算組みしてこなかった

二つ目は、専有部の配管の保全費用は長期修繕計画に予算組みしてこなかったということがあげられます。

専有部の配管からの漏水が頻発してくるのは、築30年を過ぎたマンションです。専有部の給水・給湯管を一斉更新しようとしても、大規模修繕なみの費用が必要となり、修繕積立金の値上げをするのか、一時金で支払うのかといった金銭面上の問題が噴出してきます。

③ 管理会社のノウハウ不足

三つ目は、管理会社のノウハウ不足です。そもそも管理会社が管理組合から依頼されているのは共用部の管理ですから、専有部の配管の取替えのノウハウが蓄積されていなくても、仕方のないことだと言えます。

それでも、そつなくこなす管理会社もあるとは思いますが、経験がないことから、専有部配管の一斉更新はフロント担当にとっては、荷が重い作業といえるでしょう。

④ 専有部への立ち入りが必要

四つ目は、専有部への立ち入りが必要ということです。

共用部の配管は、ほとんどが専有部外なので、工事の日程調整も、断水がいついつありますといったことを伝える程度で、それほど難しくはありません。

一方、専有部の配管を取替える場合は、職人が何日にも亘って部屋に立ち入っての作業となります。専有部の一斉更新を強硬に反対していた住民が、職人を部屋に入れさせないので工事が進まないといったトラブルも発生しがちで、全戸の一斉更新実施は、各種調整にも手間がかかることから、難易度は一気にあがります。

⑤ 面積や内装が各戸で異なる

五つ目は、部屋のタイプがいろいろあり、床や壁を剥がす面積や内装復旧の仕様が各戸で異なるということです。

見積もりを取るのに、候補となる全ての業者に全ての部屋を見てもらうわけにはいかないでしょうし、それぞれの部屋の厳密な見積もり額は異なるので、各戸での過不足をどのように修繕積立金から充当するのかといったことが、慣れていなければかなり手こずることになります。

⑥ 取替え済みの部屋もあり不公平

六つ目は、取替え済みの部屋もあり不公平感が生まれるということです。

既にリフォームをして、配管も取替えた部屋は、自腹で配管を取替えたわけですから、急に、管理組合で配管を取替えますということになっても、自腹で払った分はどうしてくれるんだというクレームになります。

取替え済みの部屋に、いったいいくらの金額を還元すればいいのかといった議論も紛糾しがちです。

⑦ 合意形成しにくい

最後は、やはり合意形成しにくいということです。

修繕積立金を値上げしなくても支払えるのか、管理規約を替えなくてはいけないのか、タイプの異なる部屋でどのように修繕積立金から費用を充当するのかといったことが問題になりさらに、一斉更新に反対する住民への対応などを取りまとめていくには、それなりのノウハウと、胆力が必要となります。

また、管理規約を変更する場合には普通決議ではなく、総会を開いて特別決議で可決する必要があります。

従来の対策

  • このように様々な理由から、専有部の配管の保全費用は長期修繕計画に予算計上されにくいわけですが、従来までは、配管の取替え費用よりはずっと安価で実施できる更生工事を行うことで、管理組合では専有部配管の延命を図ってきました。

    ただ、ほとんどの更生工事の保証期間は10年で、結局は、配管の取替えを行う必要が生じるため、更生工事費用が無駄になったというマンションが多く、更生工事の実施の是非は慎重に検討する必要があるといえます。 このあたりは、以下の投稿記事もご覧になってみてください。

  • 給水・給湯管の更生工事 注意点と費用相場

今後、取るべき対策

共用部よりも専有部のほうが圧倒的に漏水リスクは高いという現実の中、どういった対策を取っていくべきでしょうか。

あくまで、各戸に保全を任せるのも選択肢としてはありますが、築年数が経てばたつほど、漏水が頻発する一方、住民の高齢化等により管理組合としての資金力は減少します。ご相談を受ける限りでは、無理をしてでも、できるときに一斉更新しておくべきだったと思われている管理組合も少なくないようです。

 

各戸がリフォーム時に配管を取替えていけば、修繕積立金の大幅な節約につながります。管理組合としては、各戸のためにリフォーム時の配管取替えのガイドラインを作成したり、リフォーム時に配管を取替えた住民には補助金を出すという制度を確立するのも一つの手といえます。

専有部の配管を一斉更新するにはそれなりの手順を追わなければなりませんが、手順がわかればできないことではないと言えます。そして、更新してみたら「やって良かった」と満足と安堵が得られることと思います。詳しくは以下の投稿記事で解説しています。一斉更新での留意点や費用例、リフォーム時に更新する場合の費用例、管理規約改定事例などがありますので、ぜひご覧になってみてください。

また、住民にこのままではスラム化するリスクもあるという危機意識を、配管保全に関する勉強会等を通じて共有し、どうにか組合主導の一斉更新にこぎつけていくという方法もあります。

長期修繕計画に計上しているからと言って、漏水リスクが専有部よりも低いと言える共用部にばかり予算を使うのでなく、流動式セラミックス方式の延命装置を設置して、配管の漏水リスクを減らしていき、なるべく当初は、専有部の配管取替のほうに予算配分をしていくという考え方もあります。

このあたりは、以下の投稿記事もご覧になってみてください。配管保全に関する勉強会のことや、配管保全費用削減の方法、コストと漏水リスクを抑えるための流動式セラミックス方式の延命装置について詳しく解説しています。

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