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築40年から70年までの排水管の保全費用を3分の1以下にする方法

2024年5月12日
この記事のカテゴリー : 排水管の保全

5月12日付の投稿記事で、一般的に、築40年から築70年までで排水管の洗浄や取替えの費用がどれくらいかかるのか、またどういった注意点があるのかについてお話しました。

今回は、配管を傷めない洗浄方法や配管の延命装置を活用することで、排水管の洗浄や取替えに掛かる費用を3分の1以下にすることが期待できる方法についてお話します。

築70年まで住み続けるのであれば、塩ビ管以外の材質の排水管は全て取り替えることが理想ではありますが、修繕積立金が不足するなかそれをしてしまったら他の優先度の高い修繕に予算を割けなくなると、多くの管理組合さんが悩まれていることと思います。

そういった管理組合さんにとっては、とても参考になる情報ですので、ぜひ、最後までご覧ください。

動画

 

洗浄方法を工夫し、延命装置を活用した場合の費用

それでは、築41年から築70年までの間のシミュレーションをしていきます。

今回も、あくまで例示ですので、どのマンションでもこういった金額になるというわけではなく、目安として、こんなものだという感覚でご覧ください。

前提条件としては、100世帯の3LDKタイプの10階建てマンションです。排水管の立管は各世帯の専有部内に3本ずつあり、合計で30本あると仮定しています。

排水管の材質については共用部立管がライニング鋼管で、共用部の横主管と専有部排水管は塩ビ管としています。

なお、屋外の排水桝や排水管については今回は対象外としています。

① 専有部全室ムース洗浄

専有部の排水管の洗浄については、一般的な高圧洗浄ではなく、配管を傷めないムース洗浄を行う場合を考えました。

ムース洗浄方式については、こちらの投稿記事をご覧ください。

「高圧洗浄を断られる老朽化した排水管に低圧ムース洗浄!」

ムース洗浄方式では1秒に5mの速度で配管内にムースが注入されます。

作業時間が短いうえに、確実に立管までムースが到達します。

この方式では高圧洗浄のようにコードが排水管のエルボー部を擦って排水管を破損させるリスクもありません。

また立管内にもムースが到達することから、従来の高圧洗浄よりも立管内の詰まりを抑制できることが期待できます。

今回のシミュレーションでは、初年度の築41年に世帯あたり6千円で全室実施すると仮定しました。なお、①~⑤での洗浄の発生頻度や更新工事を行う割合の根拠については、後程ご説明します。

①-1 専有部ムース洗浄 要求ベース

  築42年目以降は、後述する配管の延命装置の効果を考慮して、住民からリクエストがあったらムース洗浄を実施するとしました。

キッチンの排水管が長いマンションでは、油等による排水管の詰まりが発生しやすいのですが、キッチン横の壁内に立管があるような場合は、専有部の排水管の詰まりのリスクはそれほどではなく、マンションの部屋のタイプによってムース洗浄の最適な回数は異なります。

今回のシミュレーションでは、毎年約10%程度の世帯で実施すると仮定しました。なお、シミュレーションの表の項目①~⑤の洗浄の発生頻度や更新工事を行う割合の根拠については、後程ご説明します。

特に油等で詰まりやすいキッチンのムース洗浄だけを実施するのであれば、世帯あたり3千円程度の費用となります。

なお、詰まりがひどい場合には、ムース洗浄の際に配管を傷つけずに汚物を除去する特殊なブレードブラシを併用することとしましたが、延命装置の効果により排水管自体を取替える必要性はかなり低くなると考えられます。

② 共用部排水管 ムース洗浄

共用部の排水管については、ムース洗浄を世帯あたり6千円で実施すると仮定しました。

共用部排水管のムース洗浄については、こちらの投稿記事をご覧ください。

「排水管の立管 洗浄前後の比較動画 旋回ジェットムース洗浄&高圧洗浄」

表の②-1に記載しましたが、排水管内の詰まりの状態を正しく知るために3年に1度、立管30本全てで内視鏡による配管内の動画撮影の調査を実施すると仮定します。

なお、1本あたりの費用は1万円で合計30万円と仮定しました。この内視鏡での調査結果に応じて高圧洗浄もしくはムース洗浄の頻度を決めます。

何年に1度、実施するかについては、住民の排水のマナーや排水管の材質によっても大きく異なりますが、今回のシミュレーションでは、6年に1度実施すると仮定しました。

③ 排水管立管 部分更新

排水管の立管については、漏水していたり、詰まりがひどくなった段階で、その箇所だけ部分的に更新して取替えることと仮定しました。

延命装置の効果と、定期的なムース洗浄により部分更新の確率も抑えられると考えられ、今回のシミュレーションでは築70年までに全体の3割程度を更新すると仮定しました。

1カ所あたりの更新費用は80万円と仮定しました。

なお、ムース洗浄は排水管内を綺麗にしますが、鉄管系の錆びの進行を止める効果はありません。

漏水の原因は配管内の錆びだけではなく配管の外部からの腐食や施工不良等さまざまな原因があります。

また、排水管への捨て方のマナーの違いで詰まり方の状況も変わりますで、全体の何割程度の更新が必要となるかは、マンションごとに異なります。

ただ、延命装置は配管内部の錆びの抑制効果も期待できますので、延命装置の併用で、排水管の部分更新の頻度を下げることは期待できます。

④ 専有部排水管更新

専有部の排水管についても定期的なムース洗浄によって、立管まできちんと洗浄することができ、かつエルボー部分の破損リスクも少なくなるといえます。

延命装置の効果と合わせると、排水管を更新しなくてはいけない可能性は低くなると考えられます。

今回のシミュレーションでは、築70年までで専有部の排水管の更新は、全体の1割程度のみと仮定しました。

各マンションの専有部の排水管の長さや曲がり角の数、捨て方のマナーなどによって大きく変わりますが、ムース洗浄と延命装置によって排水管取替えの確率をかなり下げることができると考えられます。

⑤ 共用部給水管 部分更新

排水管ではありませんが、共用部の給水管の取替えについての試算です。

前回の一般的なシミュレーションでは築70年までに全て更新することになる可能性が高いとしましたが、今回の試算では延命装置の効果により漏水の発生確率を抑えられることが期待できるので、全て更新する必要はないとしました。

漏水する確率が高い箇所は、立管と枝管との接続部分であるチーズ部分ですが、漏水したら、その都度、その箇所だけ世帯あたり10万円程度で取替えるとしました。

築70年までに全体の3割程度の30世帯で取替工事が必要となると仮定しました。

⑥ 流動式セラミックス方式延命装置

今回のシミュレーションでは、延命装置として流動式セラミックス方式の延命装置を設置することとしました。

今回は工事費用と本体費用で合計1000万円としていますが、この費用は、マンションの水の利用状況や給水方式等により大きく変わります。

また、8年契約のリースを活用して初期費用を抑えることもでき、修繕積立金が不足していても漏水対策を立てることができます。

延命装置の情報については、これらの投稿記事をご覧になってみてください。

配管保全装置エルセ 21年後の検証 配管の保全効果

エルセ設置マンション 漏水発生率と費用削減効果 延命装置を設置したマンションで、配管の漏水やあふれによるトラブル対応の契約をしているところが多数あります。

そういったマンションでは、高圧洗浄をほぼ実施していないところも多いですが、詰まりによるあふれや水はけのトラブルがほとんど起きていない状況です。

割合的には7年間のデータで1%未満となっています。今回のシミュレーションの①②の洗浄の頻度については、捨て方のマナーの悪さといった他の要因も考慮して予備費を確保する意味合いも含めて設定しました。

また、トラブル対応の契約をしているマンションのほとんどでは、配管の漏水によるトラブル対応の発生確率は、7年のデータで1%以下です。特に延命装置で漏水発生確率を抑制することが期待できる配管内の内部腐食による漏水は0.01%となっています。

詳細は、さきほどの「エルセ設置マンション 漏水発生率と費用削減効果」の動画をご参考にしてみてください。

共用部の給排水管からの漏水だけに限定すると、事故の発生の確率はさらに低いです。

とはいえ、築70年までとなると長期間にわたるので、外部腐食や捨て方のマナーの悪さといった他の要因も考慮して、予備費の確保の意味合いも含めて、シミュレーションの表の③~⑤の割合を設定しました。

一般的なケースとの費用比較

前回の投稿記事での一般的なケースでのシミュレーションの総費用は約1.6億円でした。

一方で、今回の投稿記事のケースでの総費用は約5100万で約1億円のコストダウンとなっています。

各マンションで、部分更新がどの程度必要となるかについては、排水管の材質や捨て方のマナー等で変わってきます。

また、施工不良の度合いや、地盤沈下・地震等に備える予備費の額によって、配管保全に充てられる修繕積立金の金額も変わってくることと思います。

このように洗浄方法を工夫し、延命装置を活用することで、かなり保全費用を抑えることが期待できるということがおわかりいただけたのではないでしょうか。

当然、余裕があれば全ての排水管を更新するのが理想ですが、多くのマンションでは修繕積立金不足で悩んでいます。

新しい区分所有者に入ってきてもらうためには、給排水設備だけでなく、外観やバリアフリー化など他にも実施しなくてはいけない改修工事がかなり多くあります。

配管保全費用は必要最低限に抑えて、他のするべき工事に回すといった総合的な判断をしていくことが肝要と考えます。

なお、漏水が起きた際には、階下への損害賠償費用が必要となるケースが多いです。

管理組合の施設賠償保険や個人賠償の包括特約は、漏水が多発することで保険が下りなかったり、契約更新拒否される可能性があります。

マンションにお住いの区分所有者の方々は各自で個人賠償保険に、外部オーナーの方は施設賠償保険に、また各区分所有者が加入している火災保険に水濡れ補償がついているかを確認しておくことをお勧めします。

保険の件については、こちらの投稿記事もご覧になってみてください。

「漏水事故に自分の火災保険は使えるの?」

今回のシミュレーションでは、排水管の立管を全て取り替えると8千万円としています。

漏水時の賠償を保険を使って支払えれば8千万円よりも、かなり排水管の保全費用を削減できる可能性が高いと言えます。

ただ、免責や求償といったリスクがあることもたしかです。

保険料や賠償費用が高くなるから全更新すべきかどうかは、その時点であと何年住み続けるのかといったことの総合的なバランスで判断していく必要があり、このあたりは、別の動画でお話させていただきます。

マンション価値を維持するために、安心して住み続けるために、配管の保全は避けて通れない問題です。

納得しないまま大切な修繕積立金を投じることのないように、配管保全センターでは、ご要望に応じて勉強会を行っています。ご興味のある方は、配管保全センターまでお問合せください。
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