勉強部屋

配管の保全方針の違いで築70年までの費用総額がこんなに変わる!!

2023年8月24日
この記事のカテゴリー : 給排水設備の更新費用

配管保全チャンネルでは、配管の保全に関して「優先順位を決めること」がとても大切ですとお伝えしてきました。

優先順位を決めていないと、本当に必要なことをしないで、それほど優先順位が高くないことばかりにお金を使い、限られた修繕積立金を大幅に減らしてしまうことになりかねません。

具体的には、漏水リスクは圧倒的に専有部のほうが高いのですが、管理会社の勧めで漏水リスクの低い共用部の取替えだけが優先的に行われているということがあげられます。

その結果、経年と共に専有部で漏水が多発し始めるころには修繕積立金も底をつき、管理組合としては対応のしようがなくお手上げ状態となってしまいます。

共用部も専有部も、きちんと更新できる予算が潤沢にあるのあれば、優先度を気にせずに全て更新していけばよろしいかと思いますが、そこまで修繕積立金を計画的に貯めていない管理組合がほとんどです。

そもそも専有部は管理組合の管轄外なので、関係ないと最初から検討外にしている組合がほとんどとも言えます。

今回の投稿記事では、築70年までを想定して、実際に、「優先順位を決めること」でどれくらい配管の保全費用の総額に違いが出るのか、
「共有部を優先した場合」と「専有部を優先した場合」の2つの方針でシミュレーションしてみました。

築25年以降のマンションだとほぼ当てはまると思いますが、専有部の給水管がライニング鋼管で、給湯管が銅管のマンションの管理組合さんには、とても参考になる情報だと思いますので、ぜひ、最後までご覧ください。

動画

 

費用比較シミュレーションの前提条件

まず、今回、「共有部を優先した場合」と「専有部を優先した場合」で築70年までの費用比較シミュレーションを行うにあたっての前提条件になります。

分かりやすくするために、築25年の100世帯で各世帯の水道メーターまわりの配管だけは、既にメーターユニットに取替え済みとします。

配管の材質は、共用部の給水管の立管と排水管の立管はライニング鋼管とします。なお、排水管の立管は、各世帯の専有部内の壁の裏に2本あるものとします。

専有部の給水管がライニング鋼管、給湯管は銅管、排水管は塩ビ管とします。

屋外の給水・排水管は、今回のシミュレーションの対象外とします。

方針①共用部を優先した場合―共用部の配管を取替え・専有部は区分所有者任せ

まず1つ目の方針で、「共用部を優先的した場合」を考えてみます。

これは共用部の配管を優先的に取替えて、専有部は区分所有者任せにした場合ですが、ほとんどの管理組合さんは、このケースなのではないかと思います。

取替え費用を概算すると、共用部の給水管が世帯あたり約2~30万円で、100世帯であれば、2~3千万円。

共用部の排水管は、各世帯で部屋の中に立管が2本あると仮定して、世帯あたり4~60万円程度となり、100世帯で4~6千万円ですね。

専有部は、区分所有者任せとしてますが、区分所有者任せのマンションで、専有部の配管が自主的に全て取替えられているというマンションは、あまり見かけません。

築40年を過ぎても取替えられていないとすると、あちこちで漏水が起こり始めるでしょう。

そうなると、管理組合名義で加入している火災保険も更新できず、「次回は加入拒否されるかも⁉」となり、そのことで頭を痛めている管理組合さんは多数いらっしゃいます。

仮に、専有部の給水・給湯管を管理組合主導で一斉更新するとすると、床や壁を復旧する内装復旧費用も必要となります。

その場合、給水・給湯管の取替えと内装復旧費込みで、ファミリータイプであれば、世帯あたり7~80万円程度が相場となります。

部屋のレイアウトの違いや業者の違いによって100万円以上になる場合もあります。

管理組合主導で一斉更新するのではなく、漏水リスクがもっとも高いとされる専有部の給湯管だけ、築25年あたりで更生工事を行うという考え方もありますが、築70年までの45年間、給湯管を取替えなくていいのかどうかは、施工業者にきちんと確認されることをお勧めします。

更生工事の保証期間が10年として、そのあと、漏水が発生して、結局、更新工事をすることになるのなら、最初の更生工事が無駄になりますので、そういった事態は避けたいですね。

このあたりのことは、以前にアップしたこちらの投稿記事も参考にしてみてください。

給水・給湯管の更生工事 注意点と費用相場

超重要!! 給湯管 取替えvs更生 どっちが得?

給湯管の事故はなぜ多い?

なお、専有部の排水管は、今回のシミュレーションでは錆びない材質の塩ビ管としております。

塩ビ管であれば、日々、住民が詰まりに気を付けるべく、油を捨てない等のマナーを守り、高圧洗浄もしかるべきところを手抜きせずにきちんと行えば、場合によっては交換しなくていい場合もあります。

ただ、油などの捨て方が悪く、高圧洗浄もきちんとされていないということであれば、専有部の排水管を多くの世帯で取替えることになり、世帯あたり50万円程度は必要となります。

方針②専有部を優先した場合―専有部の給水・給湯管を優先的に取替え・他は漏水したら補修

それでは、次に、「専有部を優先した場合」について考えてみます。

専有部の給水・給湯管を優先的に取替えて、他の配管については漏水事故が起きたら、その都度、その箇所だけ補修するという方針です。

漏水の可能性は専有部の給水・給湯管のほうが圧倒的に高いので、そちらの配管保全を優先的に取り組むという考えです。

専有部の給水・給湯管の取替えは、各世帯がリフォームする際に、一緒に取替えることを励行すれば、配管の取替え費用自体は、世帯あたり2~30万円で可能です。

更新工事ではなく、給湯管の更生工事をした場合でも世帯あたり20万円程度はしますから、同程度の費用で、給水・給湯管の両方を漏水の心配をしなくてもいい材質に取替えられるのは、管理組合にとっても住民にとっても安心ですね。

専有部の給水・給湯管の取替えを管理組合でどのように管理していくかですが、管理組合で補助金の制度を作ることをお勧めします。各区分所有者がリフォームの際に、給水・給湯管の更新工事も一緒に行う場合に、管理組合から30万円程度の補助金を支払うようにしていくのです。

そうすると、専有部での更新工事も進み、どこがまだ更新されていないかも管理組合で把握できるようになります。

補助金の細かい金額設定などに関しては、全世帯で不公平感のないように、取り決めをする必要があります。

なお、給湯管のほうが漏水リスクが最初のうちは高いですが、築70年までといった長期間では給水管も漏水リスクは高くなるので、更新するのであれば、やはりどちらも更新しておいたほうが、結局は経済的かと考えます。

給湯管だけ取替える場合と、給水管も取替える場合と、内装復旧込みでも10万円程度しか変わらないからというのが理由です。

では、共用部の配管はどのようにしていくかですが、方針②では、共用部の給水管・排水管は、漏水事故が起きたときに、その部分だけ補修していくという考え方です。

どのくらいの割合で共用部の配管に漏水事故が発生するのかは、マンションによってかなりバラツキがあります。

その都度更新するのであれば一斉更新よりは、費用はかなり抑えられることになります。

例えば、下のイラストのように、共用部給水管は青枠で示した部分の立管と各世帯の水道メーターにつながる枝管との接続部が、比較的漏水しやすいのですが、そういった箇所から漏水したら、その漏水が発生した青枠の箇所の配管だけを切り取って新しい配管に取替えるという考えがあります。

その場合は、1カ所あたり8万~12万円程度で修理が可能です。

排水管の立管も、漏水したらその系統を全て取替えるというのでなく、下のイラストのように、その場所だけ、部分補修するというやりかたがあります。

共用部を一斉更新するのと、漏水があった箇所だけ補修するのとでは、かなり大きな費用差になりますね。

ただ、部分補修の方針をとる場合、漏水が発生するたびに、緊急に対応してくれる業者を探すとなると、特急料金をとられたりするので、予めリーズナブルな業者と漏水時に対応してもらう取り決めをしておくことをお勧めします。

また、保険金を水増し請求しないような管理会社や保険代理店を選んでおくことも大切です。

部分補修の方針により、その分、浮いた費用を専有部の配管の取替え費用にあてがえば、修繕積立金の値上げなしに、より漏水リスクの高い専有部の配管を取替える方針を取ることができます。

また、延命装置によっては、給水管の錆による漏水リスクだけでなく、排水管の錆びによる漏水リスクや詰まりによるあふれのリスクも抑えることが期待できます。

そういった延命装置を設置することで、よりマンション全体での配管の保全費用を抑えることが期待できます。

もちろん、余裕があれば、共用部、専有部の配管すべてを取替えるのが理想ですが、築70年までとすると、配管以外でもバリアフリー化などさまざまな修繕が必要となってきます。

管理会社からの提案で、共用部の配管を全て取替えるという選択をする前に、漏水リスクが高いのはどの配管か? どうすれば、マンション全体で配管の保全費用を抑えることができるのか? を十分検討したうえで、アクションを起こすことを強くお勧めします。

また、すでにマンション全体で「築100年まで住み続ける」ということが、明確な方針として打ち立てられているのであれば、無理をしてでもすべての配管を取替えていくべきかと思います。

ただ、築25年の時点で、いったい何年住み続けるのかを決めるのは、かなり難しいと考えられます。

少なくとも築70年程度までは住むであろうということは、どの管理組合さんでも感じられる状況だと思いますので、それをもとに、一考されることをお勧めします。

配管保全センターでは、今回ご紹介した方針②の専有部を優先的に取替え、漏水リスクの低い共用部は部分補修で対応していくための総合的な各種提案が可能です。

ご興味のあるかたは、お気軽にご相談ください。

関連キーワード

キーワードから関連記事をご覧になれます。

関連記事

勉強部屋動画記事一覧をみる