2019年11月14日
この記事のカテゴリー : 受水槽の保全・直結化
著者:配管保全センター㈱ 代表取締役 藤田崇大
受水槽を撤去して、コンパクトな直結増圧ポンプへの切り替えを検討するマンション管理組合が増えています。以下のように経済的にも衛生的にも切り替えによるメリットは大きいといえます。
・受水槽の点検・清掃費用が不要になる ・受水槽の修理・交換費用も不要になる ・水道水を貯める必要がなく衛生面で向上する ・撤去したあとのスペースが有効活用できる
切り替えにあたってはいくつか留意点がありますので、以下に記しておきます。十分に調査、納得したうえで切り替えを行っていただければと思います。
直結増圧ポンプへの切り替えでは、水を貯めておく受水槽を撤去するので、一度に大量の水道水をマンション内の水道管に引き込めるようにしなければなりません。そのために、道路下に敷かれた水道の本管から、水道使用量を計測するマンションの親メーターまでの配管(引き込み管)を太い配管に取り換える工事が必要になります。道路のコンクリートをはつって(削って)引き込み管を交換しますが、予想以上に高額な工事になる場合があります。地域によっては助成金が出たり、水道局が負担してくれる場合もありますので詳しくはご確認ください。
引き込み管の口径はマンションの住民の数や地域によって異なります。目安となる口径を以下に記しました。たとえば、平均3人の世帯が8戸のマンションでは口径が30mmの引き込み管が必要となり、平均4人の世帯が22戸のマンションでは口径が40mmの引き込み管が必要となります。
口径 (mm) | 標準最大戸数 (流速2.0m/sとした場合) |
|
---|---|---|
20 | 1戸 | 1戸 |
25 | 2戸程度 | 3戸程度 |
30 | 6戸程度 | 8戸程度 |
40 | 22戸程度 | 29戸程度 |
50 | 53戸程度 | 71戸程度 |
75 | 264戸程度 | 352戸程度 |
出典:東京都の給水装置設計・施工基準より(4-35ページ参照)
直結増圧ポンプを設置すると、一度に多量に給水されるために、配管に通常の数倍の圧力がかかるようになります。築年数30年、40年のマンションでは配管の腐食がすすんでおり、数倍の水圧がかかることで、水漏れ事故を誘発してしまうリスクがあります。そのため、事前に配管の耐圧テスト(1.7MPa~1.75MPa)を行う必要があります。
地域によっては各世帯のパイプシャフト内の水道メーターまわりの交換が義務づけられています。これは、配管に減圧弁やバルブなどを取り付けた箇所が、異種金属接触により配管の肉厚が薄くなり、水漏れリスクが高まっているためです。水道メーターまわりをメーターユニット化すれば、メーターユニットには異種金属が使われていないので腐食による水漏れの心配がなくなります。ユニット化する費用は各世帯で数万円必要になります。
各世帯に水を送るためのポンプは3つのパターンがあります。引き込み管から各世帯に直接水道水を給水する場合には直結増圧ポンプ、受水槽と屋上に高架水槽がある場合には揚水ポンプ、受水槽のみの場合は加圧ポンプです。それぞれイラストにしましたのでご確認ください。使用頻度にもよりますが、直結増圧ポンプは他のポンプに比べて寿命も短く、価格も高額になりますのでご留意ください。
寿命目安 (使用頻度等により異なります) |
|
---|---|
直結増圧ポンプ (親メーターから各部屋) | 8~12年 |
揚水ポンプ(陸上型) (受水槽から高架水槽) | 15~20年 |
加圧ポンプ(陸上型) (受水槽から各部屋) | 10~15年 |
※実際には、上記の寿命目安よりも長く利用しているところも多く見られます。 ※実際の価格や設置工事費用は、受水槽からポンプまでの距離や配管の設置ルートなどにより大きく異なります。複数の業者から見積もりをとることをおすすめします。 ※3階建て(地域によっては7階建て)のマンションの多くは、受水槽撤去後、直結増圧ポンプが不要となります。その場合は、ポンプの交換費用やポンプの電気代・点検費用なども不要となるので、受水槽撤去により大幅なコスト削減を期待できる可能性が高くなります。複数の業者に見積もりを取った上で、見積もりに直結増圧ポンプが必要とあった場合は、直結増圧ポンプの必要性についてもきちんと見解を提示してもらうことが肝要です。また、直結増圧式と受水槽式の併用により、ポンプの大きさを小さくすることでも将来的な費用は大きく異なってきます。
法定点検として直結増圧ポンプも1年に1度実施することが義務付けられており、毎年2万5千円程度は最低必要となります。また電気代もかかります。詳しくは次の表で確認してください。
上の表では、受水槽を維持した場合と、直結増圧ポンプに変更した場合で、40年間の費用を比較してみました。今回の例では、たまたま直結増圧式ポンプにするほうが費用が高くなりましたが、以下のような条件により異なります。
・購入・設置業者の違い
・受水槽を更生でなく交換する
・増圧ポンプのパーツの取り換えなどの保守の度合いにより寿命も異なる
以下の表では、築20年から25年目あたりで直結増圧ポンプに変更後、5年間の費用を比較しています。当然ですが直結増圧式にしたほうが費用負担が多くなります。
マンションの資産価値の維持・向上のためには、他にもさまざまな修繕が必要となります。また、築60年以上など長く住み続けるのかどうかも決まっていない場合も多いでしょう。修繕積立金が不足しがちな管理組合が多いなか、修繕積立金はできるだけ将来のために節約することを考えると、直結増圧ポンプへの変更は、総合的な判断が必要になると思われます。