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大地震の時に水が使えない!? 受水槽の意外なリスク

2023年3月23日
この記事のカテゴリー : 受水槽の保全・直結化

東日本大震災や阪神・淡路大震災、熊本地震といった大地震が起きると、電気や水道、ガスといったライフラインに大きな被害が及び、マンションで何日も水が使えない状態が続いてしまいます。

マンション理事会の方からは、「大地震に備えて、受水槽や高架水槽があったほうがいい」と言われることがあります。これは、応急給水車が来るまでに数日かかりそうだから、断水の間、貯水槽があれば、タンクに貯まった水を使えるので安心ではないかという考え方ですね。

確かにそう見えますが、これまであまり議論されていなかっただけで、貯水槽方式による給水には大地震が起きた後に使えなくなるというリスクがあります。

今回は、その意外と知られていないリスクと、取るべき対策についてお話しますので、ぜひ最後までご覧ください。

動画

 

大地震の時のライフラインの復旧率

まず、こちらのグラフをご覧ください。出典は消防防災の科学「熊本地震における供給系ライフラインの被害と復旧」で、阪神・淡路大震災と、東日本大震災、熊本地震のそれぞれで、電気・水道・ガスのライフラインが何日で復旧したかを表わしたグラフです。

緑色系が電気、青色系が水道、赤色系がガスの復旧率を表わしています。

総じて、復旧は電気が最も早く1週間もすればほぼ、9割以上が復旧しているのがわかります。

次いで水道ですが、1週間以上たっても、阪神・淡路大震災と東日本大震災では復旧率が5割程度ですね。

9割以上が復旧するのは、熊本地震では1週間程度、阪神・淡路大震災で3週間以上、東日本大震災では5週間以上かかりました。

大地震直後、貯水槽の水を利用できた日数

様々なホームページ等の情報によると、東日本大震災では、受水槽や高架水槽といった貯水槽が壊れずに使えた割合は6~7割程度だったようです。

また、貯水槽が壊れずに使えた場合でも、地震直後から水を使用し始めて、半日から4日程度で貯水槽の水を使い切ったケースが多かったようです。

では、給水車による給水状況はどうだったのかを見てみましょう。給水車による一人1日あたりの目標給水量は3ℓですが、上のグラフのように、宮城、岩手、福島、茨城では、20日以上かけても目標給水量3ℓに到達するのは難しかったようです。

ということで、地震発生後、4日程度は貯水槽の水を利用できたとしても、貯水槽の水がなくなってしまったあとは、貯水槽がないマンションとあまり変わらない状態だったということになります。

一人1日あたりの水の使用量は3ℓ程度とすると、3人家族であれば4日間で36ℓ、2ℓのペットボトル6本入りが3ケースです。それくらいの量なら防災意識の高い昨今では、貯水槽に頼らずとも、各戸で備蓄しているのではないかという考え方もあります。

貯水槽にも耐震基準がある

さきほど、東日本大震災でも6~7割程度の貯水槽が壊れずに使えたとお話しましたが、実は貯水槽にも耐震基準があり、壊れてしまったのは1997年よりも前に製造された貯水槽がほとんどで、1997年以降の新耐震基準後に製造された貯水槽は、あまり壊れなかったようです。2023年時点で築26年以下のマンションであれば、新耐震仕様の貯水槽ということになりますね。

初期耐震仕様は、1981年以前に製造されたもので、2023年時点で築42年以上のマンションの貯水槽ということになります。

旧耐震仕様は、1982年から1996年に製造されたもので、2023年時点で築27年から築41年のマンションの貯水槽ということになります。

1995年のマグニチュード7.3の阪神・淡路大震災では、貯水槽が壊れて貯水できなくなった割合は、初期耐震仕様のものでも3%以下でした。

一方、2004年の新潟県中越沖地震、、2005年の福岡県西方沖地震では、壊れて貯水できなくなった割合は、初期耐震仕様のもので23.5%、旧耐震仕様のものは16%程度でした。

貯水槽の耐用年数は15年と言われていますが、大きな地震が起きなければ、築40年経過しても稼働しているものは数多くあります。

ただ、大地震が起きた場合は、やはり年数が経過するほど、被害は受けやすいと考えられます。

貯水槽の破損リスク

また、地震により貯水槽内の水が激しく振動して、パネルが破損されることを専門用語でスロッシングやバルジングと呼びますが、大地震ではこのようなパネルの破損が起きる可能性が高いといえます。

貯水槽は毎年、点検が行われますが、目視によるものなので、特に屋外で直接紫外線にさらされているような貯水槽では見た目ではわからない劣化が進み、築年数が経過するごとに破損リスクは高まります。

また、貯水槽と各世帯に給水する加圧ポンプをつなぐ配管が折れる破損事故も震災時には多いです。

大地震が起きた場合、水道局の管轄下にある道路下の本管は地域の重要なインフラですし、数日から数週間で復旧されますが、個々のマンションで貯水槽のパネルを修復するには、専門業者も手一杯の状況なことから、相当時間がかかる可能性が高いと予想されます。

状況によっては、パネルをいちから組み直す必要が生じますが、専門業者は限られており、東日本大震災のように入場制限により、専門業者がすぐに現場に入れないとなると、順番待ちとなって、数カ月から下手をすると1年以上、復旧できないリスクがあると言えます。

地震発生直後でも貯水槽があれば水を確保できるということを重視したとしても、初期耐震仕様や旧耐震仕様で製造された貯水槽のパネルは年と共にどんどん劣化しており、震災時にパネル等が破損するリスクは高まる一方です。

地震対策を重視するのであれば、破損リスクが高く、復旧に数カ月かかるかもしれない状況を避ける選択をしたほうが、賢明だという考え方もあります。

“何カ月も貯水槽が使えない”事態を避けるための対策案

それでは、劣化による破損で何カ月も貯水槽が使えなくなるリスクへの対策としては、どのようなことが考えられるでしょうか。

まずは、貯水槽パネルの強化のために、パネルに樹脂を塗布するライニングを行うことですね。もしくは、貯水槽を新しくするという選択肢もあります。

ただ、その場合、貯水槽をやめて直結化する場合の費用についても検討することをお勧めします。

直結増圧ポンプ方式の場合は、水道本管が破損していなくて、停電だけしている状態であれば、3階程度までは電気を使わなくても普段通り給水される可能性が高いです。マンション内の配管が破損していなければ、水道本管と電気の復旧とともに正常利用が可能となります。貯水槽方式の場合は、貯水槽が破損してしまうと、水道本管と電気が復旧しても、普段どおり水道水が使えるようになるまでには数カ月かかる可能性もあることを考えると、震災直後の数日の水確保のために、劣化した貯水槽を使い続けるほうがリスクが高いという考え方もあります。

また、直結増圧ポンプ方式に変更して、水道本管と直結化するのであれば、給水管の埋設管をエスロンハイパーという材質にしておけば、大地震であっても配管が破損するリスクは低いといえます。

配管保全センターでは、分譲マンションの修繕積立金の状況や、あと何年住み続けるつもりかなどを考慮して、「受水槽を保全していくのか?」あるいは、「直結化していくべきなのか?」を中立的な立場からご提案しております。

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