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排水管の立管 取替え費用 なぜ? 割高なのか

2023年12月14日
この記事のカテゴリー : 排水管の保全

マンションの築年数が40年、50年と経過するにつれ、排水管の立管の劣化が進み、漏水が起こってきます。特に漏水箇所が多いのは、立管と専有部の横引き管との接続部です。

そこで、管理組合では対策として、排水管の立管の取替えを検討し始めます。配管保全センターでは、そのような排水管の立管の取替えを検討中の管理組合から、「漏水のたびに部分補修で対応してきたが、この際、一斉取替えをしようと思い、各社から見積もりを取ったら、長期修繕計画で予定していたよりもはるかに高い見積もりでどうしたものかと思っている」というお困りのご相談をよくお受けします。

たしかに、排水管の立管の取替え費用は、給水管の立管の取替え費用などと比較して高めになりますが、それには理由があります。

今回の投稿記事では、排水管の立管の取替え費用は、なぜ割高になることが多いのか? 取替え工事費用を抑える方法はないのか? といったことについてお話しますので、ぜひ、最後までご覧ください。

動画

 

給水管と排水管の立管の取替え工事の主な違い

それでは、給水管と排水管の立管の取替え工事の主な違いを見ながら、なぜ、排水管の立管の取替え工事は、割高になることが多いのか説明していきます。

① 日程調整

まず、日程調整の事務作業の量の違いがあります。給水管の立管は各世帯の水道メーターやガスメーターが入っているパイプシャフト内にあります。

給水管の立管の取替え工事では、職人が専有部内に入って作業する必要がないので、基本的には断水日がいつになるかといった通知だけで、日程調整的な作業は終わります。

一方で、排水管の立管は、専有部内のトイレの裏やキッチン横の壁の裏にあることが多く、排水管の立管の取替え工事では、職人が専有部の住居内に入って作業する必要があることが多いです。

立管は、上の階から下の階まで縦系統ごとに、取替えていきますが、その日の工事対象となる縦系統の住民には、全員在宅してもらう必要があり、この日程調整が大変な作業になります。事前の事務作業にかなり時間を割かなければならず、そのための人件費が給水管の立管の取替え工事よりもかかることになります。

また、工事当日は、下の階から順番に新規配管を積み上げていく作業となります。

対象となる系統が1部屋でも住民が不在だと工事ができず、日程を再調整しなければなりません。

住民にとっては、工事があるのを忘れていたといった不注意によるものだとしても、不在の場合、その日の職人や交通費等の費用が無駄になり、また再度、日程調整するための事務作業が必要となるため、通常、工事業者はこういった事態も想定して高めの見積もりを提示することになります。

イラスト①

② 配管ルートの柔軟性

次は配管ルートの柔軟性の違いについてお話します。

まず、給水管の立管の場合ですが、パイプシャフト内のスペースが狭すぎたり、予算の関係で安く工事を済ませたい場合は、露出配管で新規配管を設置できます。

露出配管にしてもそれほど目立つわけではなく、かなり工事費用を抑えることができます。

修繕積立金の取り崩しが少なくすみますのでマンションの資産価値を維持できるという判断から、露出配管で経済的に取替えを行う管理組合さんやオーナーさんは多いです。

一方、排水管の場合は、既存の配管を引き抜いて、新しい配管を設置するケースが多いといえます。

排水管の立管は専有部の住居内にあることが多いので、壁や床を壊して取替えることになり、取替え後の内装復旧費用がかなり高くつくことになります。

③本数が多い

それから、給水管の立管は各系統で1本のみですが、排水管の立管は、さきほどのイラスト①のようにトイレの汚水管、キッチンの雑排水管、お風呂・洗面所・洗濯機用の雑排水管と、多い時には3本の立管がある場合もあり、当然、取替え費用はその分、高くなります。

④ ハツリ面積

マンションの上下階の間にあるスラブというコンクリートをハツる面積も、排水管のほうが圧倒的に広い場合が多いです。

給水管は排水管よりも細く、スラブ内で専有部の給水管と接続していないことがほとんどなので、ハツる必要のある面積は排水管より狭いといえます。

また、露出配管にする場合は、コンクリートをハツる必要がありません。

一方で、排水管は、給水管より太く、スラブ内で専有部の横引き排水管と接続している場合が多く、コンクリートをハツる必要のある面積が給水管よりかなり広くなります。

工事の工程が長くかかるため見積り額も高くなりがちです。

⑤ 人件費

最後は人件費の違いです。

排水管は、給水管よりも太くて肉厚のためかなり重く、既存配管を切断したあとに地上まで運んだり、新規配管を上の階まで運ぶ作業が1日中続くとなるとかなりの重労働といえます。

また、断水をしたとしても、トイレのタンクには水が貯まっているので、住民がトイレを使用したあとにうっかり水を流してしまうと、下の階で作業している職人に汚水がかかってしまいます。

同じく、前日から貯めたままの浴槽の水を、工事当日、うっかり流すと、突然かなりの量の水が流れ落ちてきて、作業員にかかってしまうことになりかねません。

さらに、キッチンは別の立管になりますから、工事中でもキッチンで水が使えるように断水しないでいると、洗濯機や洗面所でも水が使えることになります。

最近は、タイマー予約で洗濯機を作動できるため、うっかり予約解除し忘れていた洗濯機が作動して、長時間にわたって大量の水が流れ落ちるということもありえます。

この場合、洗濯機が回っている住戸の水道メーターのバルブを閉めない限り、その状態が続いて工事ができなくなります。

排水管の立管は、狭いところにあるため、上から排水が流れ落ちてきても、職人は逃げることもできず、そのまま排水をかぶらなければならない場合も多いのです。

大量に流れ落ちてきた排水を、バケツで受けきれずに、取替作業を行っているトイレやキッチンの床等が水浸しになってしまったら、そのつど、汚水のふき取り作業も行わなくてはなりません。

工事のお知らせを掲示板やエレベーター内に貼り、全住戸のポストに投函したとしても、なかなか守られずに、うっかり排水がとても多いのが現状です。賃貸で日本語の読めないかたが住民だったり、民泊が多いマンションではなおさらです。

排水管の立管作業は、このような作業環境であるために、なかなか職人が集まりにくく、人件費が給水管の場合よりも高めでないと体制が整えられないことが見積り額に大きく影響するといえます。

なるべく見積り額を抑えるための対策例

このように、排水管の立管の取替え工事では、見積り額が割高になりがちなことがお分かりいただけたのではないかと思います。

では、なるべく見積り額を抑えるためには、どのような対策があるかです。

合い鍵を作る

ひとつは、工事対象の系統で、不在になってしまうことを避けるために、例えば全員の合鍵を予め作り、管理組合できちんと管理するといった対策があります。

合い鍵を全室分作るのは、全員の合意を得た上で、また、念のため、必要に応じて管理規約の細則に追記する等の対応も考えられます。

管理組合が預かった鍵を、どうやって保管するのか等、きちんと決めておかないと、住民からの合意を得るのは簡単ではないかとは思います。

また、貴重品の取り扱いに関する覚書を全住民からもらっておく等、注意すべきことはありますが、これを前提にして見積もりを作成してもらうことで、施工業者としては、安心して工程を組めることになるので、見積り額としては安くなることが期待できます。

不在になる部屋だけ、合い鍵を工事前に管理組合に渡しておくようなルールにするのも、有効ではあります。

ただ、事前に十分に住民説明会をしたり、エントランスやエレベーター内に大きく貼り紙をしていても、合い鍵を渡すことをうっかり忘れて、不在にしてしまう方は非常に多く、施工業者としては、当日のドタキャンのリスクを回避できるとは思えないので、そのルールの場合は、そのための安全を見た見積もり費用になるかと思われます。

ペナルティ制の導入

また、合鍵も渡さず、うっかり不在となった場合には、施工業者の損害額をその住民が負担するといったルールを決めておき、住民に自分たちの住居の工事であることに責任を持ってもらう方法も有効です。

施工業者が住民にペナルティ代を徴収するのは難しいので、管理組合が立替えて支払うといった工夫があれば、施工業者は安心して見積もることができます。

断水にする

キッチンは別の立管で、工事中もキッチンは使えるようにするといった配慮をすると、さきほどのようにタイマーで洗濯機が作動してしまうといったリスクが残ります。

そういったリスクを避けるために、最初から、断水にしてしまえば、施工業者としては、うっかり水を流されるといった事態を極力避けることができ、見積もりも抑えることができます。

工事前に住民が声がけ

断水してもトイレや浴室からの排水のリスクは残ります。工事当日の朝、管理組合が協力して工事対象の世帯に声をかけ、トイレの水や浴槽の水が貯まっていないことを確認して回ると取り決めておくことも有効です。

工事の前日や当日に電話で確認したり、前日に住戸のドアに大きな赤字で貼り紙をしておくのもいいでしょう。それでも、貼り紙を読まなかったり気にもかけない人もいるので、なかなか徹底できないところではあります。

排水管にキャップをする

上からのうっかり排水の対策として、排水が流れ落ちないように作業中は、排水管の立管にキャップをしておくという方法もあります。

ただ、この場合、上の住民がうっかり浴槽の水を排水したり、洗濯機のタイマーが作動してしまったりすると、落ちてきた排水の行き場がなくなり、キャップをした上の階の洗濯パンや浴室の排水溝から水があふれ出して、漏水事故につながる可能性があります。

この場合、施工会社の工事中の保険は適用できないことが多く、うっかり排水をした住民の個人賠償責任保険を使う必要があるので、全住民が保険に加入しているか、事前に確認しておいたほうが無難といえます。

全住民の保険加入状況を確認するのは難しいですが、加入していなければ、うっかり排水をした個人が、高額な賠償を支払うことになります。そのことを住民説明会等で、しっかり伝えておくことが望ましいです。

排水管の取替えとして長期修繕計画で予定していた予算よりも、かなり高い見積もりが出てきてお困りの管理組合さんはたくさんいらっしゃいます。

住民サイドの理解を得ながら、なるべく工事費用を抑えられれば、いいですね。

配管保全センターでは、排水管の取替え作業を行う際に、なるべく見積り額を抑えられるような仕組みも併せてご提案しています。ご興味のあるかたは、お気軽にご相談ください。

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