2020年8月23日
この記事のカテゴリー : 排水管の保全
著者:配管保全センター㈱ 代表取締役 藤田崇大
キッチンや洗面所でなかなか排水が流れない、バスルームの水はけが悪く、シャワーを浴びていると水たまりができるなどのお悩みをよく聞きます。いずれも老廃物やサビによる排水管の詰まりが原因といえます。サビは放っておくと堆積して錆コブになり、老廃物がつまって排水管の逆勾配を引き起こすので注意が必要です。
排水管は構造上も逆勾配となりやすいのですが、マンションの排水管の勾配は通常どのくらいだと思いますか? 数字を聞くと、想像以上に緩やかなので驚かれるでしょう。
・雑排水管:1/50(5cmで1cm下がる)
・汚水管:1/100(10cmで1cm下がる)
1センチはわずかな勾配です。排水管の先に錆コブができてそこに老廃物がせき止められると、手前よりも先のほうが高くなって逆勾配になります。排水が流れにくくなり、水が逆流してキッチンやバスルームの排水口からあふれ出すことになります。
排水管の逆勾配
厚さ1センチの錆コブに老廃物が溜まると逆勾配になります
錆コブで徐々に閉塞していく排水管
錆が堆積してできた錆コブに老廃物がせき止められ、逆勾配になります。
「水はけが悪いな」と思ったら、まず、マンションの排水管に錆びやすい材質が使われていないかチェックしてみてください。築40年以上のマンションでは、白ガス管という錆びやすい材質の排水管が多く使われています。築20年以上のマンションでも、塩ビ管ではなくライニング鋼管という継手部分が錆びやすい材質の排水管が使われていることが多いといえます。
錆びるのは、排水管の鉄成分に水が反応するからですが、排水量が多く、配管の鉄成分と水が触れている部分が多ければ、それだけ広い表面積が錆びやすくなります。実際に、築40年、50年以上のマンションでは、排水管の閉塞率が95%以上のところもあります。
築年数が経ったマンションであればあるほど、排水管は階下の天井に配管されて、排水管の交換工事が高額になり、交換されないままになっている場合も多くなります。さらに、配管内では錆が堆積して硬くなり、高圧洗浄でも錆びコブが落とせなくなります。大きくなった錆びコブが邪魔になって、それよりも先の配管も洗浄しづらくなります。また、高圧洗浄のノズルやコードが、錆びの浸食で肉厚が薄くなった配管を強くこすり、水漏れが発生するという危険性もあります。このため、築年数が経過すればするほど、高圧洗浄業者から洗浄作業を断られるケースが増えてきます。
では、排水管の取替えも行わず、錆コブもそのまま放っておいていいのかというと、そういうわけにはいかないでしょう。先ほども触れましたが、築40年以上のマンションでは、白ガス管やライニング鋼管の継手部分に大きな錆コブができている可能性が高く、排水管のつまりによる水あふれや、階下への水漏れ事故が多発するようになるからです。水漏れで自宅の排水管の交換だけならば、数十万円の出費で済む場合もありますが、階下に水漏れすると、損害賠償の費用は高額になります。老朽化による水漏れ事故は、個人賠償保険でも保険適用を拒否されるケースが多く、賠償費用は数百万円になるかもしれません。
では、更新工事をしたらいいかというと、それも難しくなります。更新工事として排水管に樹脂を塗布するライニング工事では、予め配管の錆びを落としますが、その際に、もともと錆が浸食して薄くなっていた配管に穴が空き、逆に水漏れ事故を誘発してしまうというリスクがあるのです。そのため築年数が経ったマンションの更新工事は、ライニング工事業者からも敬遠されがちになります。
「うちのマンションは、あと10年で取り壊しが決まってるから、排水管の交換をしないで済むように、それまでなんとか事故を起こさないでくれ」と祈りたくなりますが、一度水漏れ事故が起きると出費は高額になります。排水が逆勾配で流れないために、洗濯ができなくなったり、お風呂の水はけが悪くて、お湯をあまり使えないといったことも増えてきて生活にも支障をきたすことになります。水はけの悪さや排水管のつまりに気づいたら、放っておかずに配管の延命工事を考えることをおすすめします。