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法改正迫る! マンションの建替えを検討中の方へ  排水管の劣化認定で容積率アップに!

2021年10月1日
この記事のカテゴリー : 排水管の保全

マンションの建替えをしたいが、なかなか住民の同意を得られずあきらめている管理組合さんは、かなり多いのではないでしょうか。

実際、国交省の統計データによると令和3年4月時点で、建替え工事が完了しているマンションは、全国でたったの263件で、ごくごく一部という状況です。

建替えを行う際の、大きなハードルが容積率の制限ですよね?

容積率が増えずに世帯数がそのままであれば、マンションの建替えを行うのに、既存の区分所有者の負担が何千万円にもなるため、住民の同意を得るのは難しくなります。

一方、建替えに成功したマンションでは、イラスト①の実例のように、建替え後の世帯数を増やして、既存の区分所有者の自己負担額を抑える、もしくは負担額をゼロにすることで同意を得ています。

つまり、容積率の制限があると建替え後の世帯数を増やすことが難しく、そのために、かなり多くのマンションが、建替えを断念しているというのが実情といえます。

イラスト①

このような事情から、「容積率の制限が緩和されれば、建替えの話も進められるのに」と思う管理組合さんもいらっしゃることと思います。

今回、法改正により「排水管の劣化により条件を満たせば、建替え後の容積率が緩和される」可能性が出てきました。築年数が経ったマンションでは、排水管の劣化も進んでいますので、これに当てはまるケースが多くなります。

今回の投稿記事では、法改正によって、排水管がどのような状態であれば、容積率アップにつながるのかをご紹介しますので、建替えをあきらめかけている管理組合さんは、是非、ご覧になってみてください。

動画

 

今回の法改正の概要

「マンション建替え等の円滑化に関する法律」ってご存知でしょうか。

わかりやすく大雑把にいうと、「古くなって修繕がとても困難なマンションを再生しやすくするための法律」です。

略して「マンション建替え法」と呼ばれています。

このマンション建替え法が法改正され、予定通りであれば令和3年12月20日に施行される予定です。まだ、確定ではありませんが、専門家の意見を取り入れたパブリックコメントを経て、ほぼほぼ内容が決まってきているようです。

そして、この法改正の中に、今回取り上げた、「排水管の漏水事故が発生しているマンションであれば、建替え時の容積率が条件を満たせば特例で緩和される」という内容が含まれています。

これは、配管設備の劣化により「住宅の基本的条件である生活インフラが不十分」ということで、特定行政庁から「要除却認定」されたマンションは、特定の条件を満たせば、「容積率の緩和特例」を受けられるというものです。

要除却認定という難しい言葉が出てきましたが、簡単にいうと、「このマンションは修繕が困難なので、マンションを取り壊すにあたり、特例として行政が認定します」ということですね。

特定行政庁というのは、都道府県や大きな市のことですが、ご参考までに特定行政庁の一覧のリンクを貼っておきます。

なお、要除却認定されるには、一定の敷地面積を有し、市街地環境の整備・改善に資するものについて、特定行政庁が許可した場合という条件付きですので、ご注意ください。

要除却認定を利用した建て替えの手順

イラスト②に容積率緩和を認められて、マンションを建替えるまでの手順を簡単に示しました。

まずは、管理組合が特定行政庁に「要除却認定」を申請します。

特定行政庁による要除却認定を得たあと、マンションの建替えに向けて、いったんディベロッパー等に買い受けてもらうために、敷地売却について総会で決議が必要となります。

イラスト②

なお、配管設備に関する要除却認定だけでは、この総会では全員からの同意が必要になります。

総会で全員の同意でなく、5分の4以上の同意で可決できるようにしたいのであれば、表①にあるように、「生命・身体への危険性がある」と判断される①耐震性不足、②火災安全性不足、③外壁等剥落危険性のどれかで、要除却認定を取得する必要があります。この3つのどれかで要除却認定されれば、5分の4以上の同意で可決できるとともに、容積率も特定の条件を満たせば、特例緩和されますので、配管設備に関しての要除却認定を取得する必要はありません。

表①

ただし、築40年経っていないマンションの場合、1981年以降に適用された新耐震基準に基づき建てられているので耐震性があり、火災安全性は十分で、外壁剥落の危険性も少ないため、①②③で要除却認定を取得するのは難しいといえます。その替わり、築40年経っていないマンションでも排水管がスラブ下にあり、すでに多少の漏水があるマンションは割と多いといえますから、今回の認定では、スラブ下配管の排水管で漏水が2か所あれば適用されるので、比較的、要除却認定されやすいといえます。

また、マンションの建替えを検討するにあたっては、比較的初期の段階で、マンションを買い取り、新しくマンションを建設してくれるディベロッパーなどの買受人の目途をつけておく必要があることは言うに及びません。

総会で、敷地売却が可決されれば、容積率の緩和は既に認められていますので、さきほどのイラスト①のような世帯数を増やす建替えが可能になります。区分所有者の自己負担がない、もしくはかなり負担額を抑えられるということであれば、全員の同意は得やすい環境になると言えますね。

要除却認定を取得する際の注意点

ここで、要除却認定を取得する際の注意点について、触れておきます。

とても重要な話ですので、お聞きください。

ひとつは、要除却認定された場合、その後、区分所有者が個別に、マンションの売買を行う際に、売買の重要事項説明書に「要除却が認定された」旨を記載・説明する必要があります。

それから総会での同意を得られずに、放置したままにしていると行政から除却に関しての指導が入ってきます。

がんばって、要除却認定を取得しても、総会で同意が得られなかった場合、単に、現時点ではマンションが不適合だという烙印をおされただけということになり、要除却認定を取得したがために、スラム化に拍車がかかる可能性が高くなります。

ということで、要除却認定の申請を行う前に、「本当に総会で必要な同意が得られるのか?」、「ディベロッパー等からの協力が得られるのか?」を十分に吟味して可能性を見極めたうえで、慎重に行うことが必要と言えます。

配管設備で要除却認定となる条件

それでは、配管の設備がどういう状態であれば、今回の要除却認定をもらえるのかということについて、少し詳しくご紹介します。

国交省の定義案としては、

「スラブ下配管方式の排水管で、二箇所以上で漏水が生じているもの」

となっています。

こちらのイラスト①をご覧ください。このイラストは国交省のホームページに掲載されている内容で、現段階では確定しておらず案の段階です。リンクはこちらです。

イラスト③(出典:国交省の要除却認定実務マニュアル骨子案)

排水管のどの場所での漏水が該当するのかというのは、この図のようにスラブに埋設している部分からスラブ下を通って立管に至るまでの箇所になるようです。

なので、スラブの上に排水管があるマンションは対象外ということになりそうですね。

排水管がどこを通っているのかは、現地調査や竣工図等で建築士さんが確認することになりそうです。

また、漏水事故が発生したかどうかについては、修繕履歴や保険適用履歴といった情報での判断になるようですね。

それから、基準概要には「2か所以上で漏水が生じているもの」とありますが、2か所以上という定義案については、同じく国交省出典の情報であるイラスト②に次のように記載されています。

左側の例のように、異なる住戸のスラブ下の排水管から漏水した場合、2か所としてカウントされます。

また、真ん中の例のように、同じ住戸でも、スラブ下の汚水管と雑排水管のそれぞれで漏水した場合も2か所としてカウントされます。

ただし、右側の例のように、スラブ下の同じ排水管で2か所漏水が発生した場合は、2か所ではなく1カ所での漏水としてカウントされます。

イラスト④(出典:国交省の要除却認定実務マニュアル骨子案)

最近、一般社団法人マンション維持管理費削減機構という組織が設立されて、私も理事になっています。ここでは、名前の通り、マンションの維持管理の削減に関する提案を行っており、こちらの削減機構でも要除却認定のご相談を受け付けています。

要除却認定について、更に情報を入手したい方は、お気軽に削減機構や配管保全センターにお問合せください。

削減機構の問い合わせ先はこちらです。

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