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専有部の給湯管  1.管理組合で更新? 2.各自で更新?  どちらが得かシミュレーションしました

2021年8月14日
この記事のカテゴリー : 修繕積立金・専有部の取り扱い

分譲マンションの管理組合さんから最近、特に多いご相談が、
「専有部の給湯管が銅管で漏水事故が起き始めたが、管理組合主導で更新したほうがいいかどうか悩んでいる。」ということです。

原則として、床下の給湯管は専有部なので、保全は各区分所有者に任されています。管理組合が主体となって更新を行うには、次のような課題をクリアする必要があります。
・管理規約の変更
・各自で更新した場合の費用の清算方法
・一斉に更新する場合の修繕積立金での負担と区分所有者の自己負担の割合
何より、「給湯管をわざわざ取替える必要はない」と、組合主導による取替えに反対する区分所有者は、それなりにどの管理組合でもいらっしゃる可能性が高く、合意までに時間がかかる場合も少なくありません。

とはいえ、築40年あたりを過ぎると、多くのマンションでは、給湯管の銅管や給水管のライニング鋼管から漏水が多発し始めるのは事実です。

そういった理事会では、組合主導で全世帯の給湯管を一斉更新したいと思っているところが多いのですが、住民から同意を得るのは難しそうで、どうしたらいいかわからないと悩んでいる管理組合さんはかなり多いといえます。

この投稿記事では、給湯管の銅管を組合主導で更新した場合と、各区分所有者に更新を任せた場合で、どれくらい費用面で差が出てくるかをシミュレーションしてみました。

あくまで、サンプルとしてのシミュレーションですが、今回の結果は、住民の方々に「管理組合主導で更新したほうが望ましいな」と納得していただける判断材料になりえると思いますので、給湯管が銅管の管理組合の理事さん方は、是非最後までご覧ください。

なお、今回の内容は築年数25年以上で、給湯管が漏水しやすい銅管のマンションの場合を想定しています。給湯管が銅管でなくライニング鋼管や樹脂管の場合には、また別の保全の考え方がありますので、それに関しては別の投稿記事でご紹介したいと思います。

動画

 

前提条件

  • 今回のシミュレーションでの前提条件を次に上げました。

    築25年の40世帯のマンションで、給湯管が銅管、給水管がライニング鋼管です。

    これくらいの世帯数のマンションであれば、給水管と給湯管の両方を取替える費用と、両方の配管を樹脂でライニングする更生工事の費用はあまり変わりません。そこで更新工事が選択されることを前提としました。

    また、前提に「築70年まで住む」と書いていますが、築25年あたりのほとんどの管理組合では、「築何年まで住むか」というコンセンサスは住民間で得られていないと思います。漠然と「築60年程度まで」と考えているところも多いので、今回は、10年多い築70年までとしました。

① 管理組合は関与せず各自が更新する場合のシミュレーション

それでは、まず、管理組合は関与せず、区分所有者が各自で給水管と給湯管を更新する場合のシミュレーションです。ここでは各自更新ケースと言うことにします。

  • 築年数が経ったマンションでは、各区分所有者が独自にリフォームやリノベーションを行いますが、その際に配管まで更新しようという方は少ないと言えます。従って各自更新ケースでは、漏水事故が起きた特に、その事故を起こした部屋の区分所有者が配管を取替えることになります。

    また、その際、事故が起きた箇所だけ、更新する場合もありますが、築70年まで住むとなると、その後も漏水事故が再発する可能性が高いので給湯管を全て更新するという前提にしました。

    また、給湯管を取替えるのであれば、錆びやすく水漏れが発生しやすいライニング鋼管の給水管も一緒に更新するほうが効率的です。そこで前提として事故が起きた時点で給水・給湯管を全て取り換えることとします。

また、イラスト①にあるように、築35年~築70年までの間で70%の世帯、ここでは全世帯が40世帯なので、28世帯が漏水事故を起こすと仮定しました。

イラスト①

漏水事故発生後の、給水・給湯管の更新費用は、イラスト②のように世帯あたり平均50万円としました。

また、階下への損害賠償は、発生しない場合もあり、場合によっては数百万円に及ぶ場合もありますが、世帯あたり平均60万円と仮定しました。

ということで、1回の事故で更新費用50万円と賠償費用60万円の合計110万円で28世帯発生となると3,080万円になります。

イラスト②

これらの費用は、保険でカバーされるんじゃないの?と思われる方もいらっしゃると思います。

たしかに、漏水事故が起こり始めた初期は、管理組合や区分所有者が加入している火災保険や個人賠償責任保険で、ある程度カバーされるはずです。ところが何度も同じ現象で漏水事故が起こると、保険適用されなくなってきます。

漏水の補償として保険会社が支払った保険金が、次回の契約時にそのまま保険料に上乗せされたり、継続加入の更新拒否をされたりもしますので、度重なる漏水事故は経年劣化による事故とみなされ保険でカバーされないと認識したほうが無難と言えます。

表①

今回のシミュレーションはあくまでサンプルであり、本当にこの金額になるのかというよりも、想定していなかった高額な出費になりえることを認識いただくことが大切と考えます。

また、さらに、注目すべきは、水漏れリスクとマンションの資産価値です。

配管の保全処置を何もせず、配管を放置している世帯での水漏れリスクは、築70年までとすればかなり高くなります。

現在、マンションでの漏水は社会問題化しており、中古マンション購入時に、配管の保全状況を重要視する傾向にあります。水漏れが多いマンションを好んで買いたいと思う人は、いませんよね。

配管が更新されていない場合、水漏れリスク回避のために将来の配管の交換費用相当額をマンションの購入価格から値引かれる可能性もあり、きちんと配管保全をしているマンションと比較して、マンションの資産価値はかなり低くなると考えられます。

② 管理組合主導により更新を励行する場合のシミュレーション

では、管理組合主導により配管の更新を励行する場合についてのシミュレーションです。

イラスト③にあるように、築25年から10年後の築35年までにリフォームやリノベーションをする世帯には、給水・給湯管の更新を必ず行ってもらうよう組合から働きかけているケースです。

それで築35年になってもまだリフォームやリノベーションをしていない世帯については、一斉に給水・給湯管を組合主導で更新することを総会で決議します。

シミュレーション上は、築35年までに半分の20世帯が更新し、残りの20世帯が築35年に一斉に更新すると仮定しました。

イラスト③

イラスト④に費用の内訳を掲載しています。

リフォーム・リノベーション時には床や天井を剥がすので、配管をついでに更新できて、更新費用が安くつきます。今回のシミュレーションでは各自が個別にリフォーム・リノベーション時に更新する場合は、世帯あたり30万円としました。

イラスト④

また、個別のリフォーム・リノベーション時でなく、更新していない世帯で、一斉に更新する場合は、配管の取替えのために床や天井をわざわざ剥がす必要があるので、リフォーム・リノベーションの時よりも、割高になります。それでも一斉に更新すればボリュームメリットが働いて割安で工事できると仮定して世帯あたり45万円としました。

ということで、合計費用としては、
リフォーム・リノベーション組が、30万円×20世帯の600万円。
一斉更新組が45万円×20世帯の900万円
で合計1500万円です。

表②

さきほどの、各自更新ケースでのシミュレーションでは3080万円だったので、約半分の費用ということですね。各自更新ケースでは、この時点でまだ12世帯が未更新として残っているので、築70年経過しても更に住み続けるということであれば、今後、未更新の世帯の更新費用や賠償費用も必要となることをご留意ください。

あくまでシミュレーションですが、今までご相談を受けている数多くのマンションの傾向を見ると、あながちはずれてはいないといえます。

それから水漏れリスクについては、一斉更新後は、ほぼリスクがなくなるため各自更新ケースよりはマンションの資産価値も高くなると言えます。

また、シミュレーション結果では、各自更新ケースでは3080万円で更新励行ケースではその約半分の費用になりますから、更新励行ケースでは修繕費用の大幅な節約になります。

築70年までに必要となるそのほかの修繕に資金を回すことができます。

総合的に比較して、更新励行ケースのほうが、安心してマンションライフをお過ごしいただけるのではないでしょうか。

今回は、あくまで給湯管が銅管のケースでの話です。他のマンションでもやみくもに更新を励行するのが正解かというと、漏水リスクが低い材質の配管に関しては、一斉に更新するのではなく、部分補修の考え方を取り入れたほうが望ましい場合もありますので、ご注意ください。

今回のシミュレーションのようなことを実行するには、冒頭にも述べましたが、管理規約の変更、更新済みの区分所有者への返金方針、一斉に更新する際の各世帯単位での費用の違いの取り扱い、内装の復旧費用の取り扱い、一斉更新の前に、リフォーム・リノベーションする世帯のチェック体制等、さまざまな課題があります。

このあたりは、また別の投稿記事で、改めてお話する予定です。

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