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【実例】築50年漏水多発マンション 積立金不足でスラブ下排水管を一斉更新できない場合の危機回避の策とは?

2025年10月24日
この記事のカテゴリー : 排水管の保全

築年数が50年前後のマンションでは、各住戸の排水管がいわゆるスラブ下配管となっているところが多いです。

スラブというのは、上の階と下の階を隔てる天井裏の厚いコンクリートの板のことです。

上の階の排水管が、下の階のスラブの下にある場合に、これをスラブ下配管と呼びます。

スラブ下配管の場合は、区分所有者が配管を交換したいと思っても、下の階の方の協力を得る必要があり、共用部扱いになります。

共用部扱いということは、このスラブ下配管の保全責任は、なんと管理組合となり、ここが一般のマンションと大きく異なる点といえます。

経年劣化によってマンションのいたるところで、このスラブ下の排水管から漏水が頻発しはじめたら、本来は修繕積立金を使って、一斉に全戸のスラブ下配管を取替えてしまうのが理想ではあります。

ですが、多くのマンションでは、スラブ下の排水管を取替えたくても、修繕積立金不足により、一斉更新できないという問題に直面しています。

そのまま放っておくと、漏水だらけのマンションになってスラム化してしまうリスクが高まることになります。

今回は、まさしくそのような状態に陥りそうになっていた築50年前後の250世帯のマンションの実録をお届けします。

どのようにして危機的状況を乗り切っているのか、組合での話し合いから、具体的な工事の内容や費用までお話しします。

同じような悩みを抱えている理事会の方には、とても参考になる内容ですので、ぜひ最後までご覧ください。

築50年マンションが抱える配管の問題点

まず、このマンションが直面していた問題を整理しましょう。

このマンションは築50年以上で、約250世帯が入居しています。

住民間では理事会での合意のもと、100年マンションを目指そうという共通の目的を持っています。

そのような中で、スラブ下配管からの漏水が毎月のように発生している状況でした。

ここで重要なのは、このスラブ下配管は専有部ではなく共用部の扱いになるということです。

スラブ下ではなく、各階のスラブの上に排水管があるのであれば、専有部扱いとなり各区分所有者が責任を持って、各自自費で保全しなければなりませんが、このマンションではスラブ下に排水管があるため、管理組合が修繕積立金を使って保全する必要があるということになります。

ところが、このマンションでは、他の多くのマンションと同様に修繕積立金が十分ではありませんでした。

大規模修繕の費用も年々、すごい勢いで値上がりしていますし、窓サッシの交換等、いろいろな修繕を行う必要がある中、全戸のスラブ下配管を修繕積立金を使って一斉更新する資金的な余裕はありません。

かといって、毎月のようにスラブ下配管からの漏水が発生しており、大きな問題となっていました。

スラブ下配管改修への大きな決断

そこで管理組合は大きな決断をすることとしました。

「今後、漏水が発生した住戸については、その住戸のスラブ下配管は全部取り替える。

さらに、スラブ下配管と縦に通っている立管との接続部分も取り替える」という方針を出したのです。

ただし、これを実現するには大きな課題がありました。

一つ目は、工事に住民の協力が必要だということです。例えば4階で漏水が起きた場合、実際の工事は3階の天井裏で行います。

ですから、3階と4階の両方の住民の協力が必要になります。

さらに、スラブ下配管と立管の接続部を取り替えるとなると、4階より上の階の住民は工事中、水が使えなくなります。排水ができなくなるということです。

二つ目は、スラブ下配管と排水管の立管との接続部を取り替えるには、3階と4階の間のスラブ、つまりコンクリートの床を壊す必要があります。

これがかなりの騒音になり、その工事を行う系統だけでなく多くの住民に迷惑をかけることになります。

そして三つ目、これが一番重要とも言えるのですが、漏水が起きたらすぐに対応してくれる業者を予め確保しておく必要があるということです。

なぜかというと、漏水は緊急事態ですから、その場で業者を探すと足元を見られます。言い値で請求されてしまうということです。

漏水の都度、その住戸のスラブ下配管と立管を取替えるとなると、相見積を取っている余裕もなく、場合によっては100万円、150万円といった高額な費用を請求されることもありえます。

皆さんから集めた限りある修繕積立金ですから、そんな計画性のないもったいない使い方はできないですよね。

具体的な対策―作業別に業者を確保する

そこで私たち配管保全センターと管理組合とで協議して、事前に体制を整えることにしました。

まず、漏水してから慌てて対応業者を探すのではなく、3つの領域にわけて、対応業者を事前に確保することとしました。

一つ目の領域の対応業者としては、漏水が起きたらすぐに駆けつけてくれる内装復旧業者です。

スラブ下の配管から漏水すると、下の階には雑汚水が天井から雨が降るように漏れてきます。放っておくと、天井、壁、床、家財道具が水浸しになるなどの損害が広がり、臭いも部屋中に充満してしまいますので、一刻も早い対応が必要となります。内装復旧業者は漏水が広がらないように応急処置をしてくれます。

業者の選定条件としては、マンションから近いところに事務所があり、かつ、リーズナブルな費用で工事をしてくれることです。

配管工事も対応してくれるのが理想ですが、両方のスキルを兼ね添えていて、かつ、マンションの近くという条件を満たす業者が見つからなかったので、配管業者は別で手配することとしました。

次に、二つ目の領域の対応業者ですが、スラブ下配管と立管との接続部の配管を取り替える配管業者です。

トイレの天井裏、洗面所の天井裏、ユニットバスの天井裏のスラブ下配管、それから立管との接続部の配管を1日で迅速に取替えるには、熟練のスキルと実績が必要となります。

妥当な費用で対応してくれる業者はすぐに見つかるものではないので、予め確保しておく必要があります。

三つ目の領域の業者は、ユニットバスの天井にパネルを貼って復旧してくれる専門業者です。

ユニットバスの天井裏にあるスラブ下配管を取替えるには、かなり広い範囲でユニットバスの天井裏を開けることになり、通常はユニットバス全体を解体しなくてはいけません。

ユニットバスを丸ごと取替える場合、最低でも50万円程度の追加費用が必要となります。

専門のパネル業者なら、丸ごと取替えなくても、広く開けた天井にパネルを貼ることで復旧することができます。

ということで、三つの領域での対応業者を確保しました。

では、実際の工事の流れを説明します。対応する工程は大きく4つの段階に分かれます。

第一段階:緊急対応

たとえば、漏水が3階の天井から発生したら、まず内装業者が漏水している3階の住戸に駆けつけます。

3階の天井裏の漏水箇所を特定して、漏水しているところに、水中ボンドなどの粘土のような接着剤を使って暫定的に漏水を止めます。

漏水箇所の特定が難しく漏水が続く場合は、バケツなどで漏水を受けられるように処置します。

こうすることで、4階の方は水を使うことができます。

それから、後日、配管業者がスラブ下の配管取替えができるように、トイレ、洗面所、ユニットバスの天井を開けます。

ユニットバスの天井は、左右に10センチ程度幅を残して開口します。

開けた後はプラスチック製のベニヤ板で仮に塞いでおきます。

第二段階:配管の取り替え

後日、配管業者が3階の住戸に入り、スラブ下配管の取替えと立管との接続部の配管を耐火VP管に取り替える作業を行います。

ご参考までに、排水管の材質は、トイレからスラブを貫通する配管は鉛の鉛管、洗面、洗濯機、台所、浴槽からスラブを貫通する配管は塩ビ管。スラブ下の配管と立管は鋳鉄管となっています。

まず4階から上の階の各住戸の水道メーターのバルブを閉めて水を使えないようにします。

これは、既存の立管を取り外している間に、4階から上の階の住戸が誤って排水して漏水被害が広がってしまうのを防ぐためです。

止水している間に、鋳鉄管製の3階の天井裏のスラブ下配管と、立管との接続部分の配管を耐火VP管に交換します。

  なお、トイレについては、4階のトイレの便器を外して、鉛管を取り除き、耐火VPに取替えます。

3階の天井裏に配管された古い鉛管を切断する際に、鉛管は柔らかいために変形してしまうことがあり、そのままだと耐火VP管にしっかり接続されずに、漏水が発生する可能性があるからです。

トイレ以外のスラブを貫通する配管は塩ビ管で、これらは状態がいいので取替えずそのまま使います。

工事が終わったら、天井はプラスチックのベニヤ板などで仮に復旧しておきます。

また、スラブ下配管と立管の接続部を取替えるには、3階と4階の間の立管のまわりのスラブを壊す必要があります。

4階の立管の近くにガスメーターがあって邪魔になるため、ガスメーターを取り外しての作業となります。

作業中に誤って、4階より上の住戸が排水しないように、管理組合から事前にしっかりお知らせすることも重要です。

第三段階:内装の復旧

後日、最初に応急処置をした内装業者が来て内装を元通りにします。

3階の天井は、石膏ボードや合板を使ってクロスを貼ったり、塗装をするなどして復旧します。

また、4階のトイレからの鉛管を取り除いたあと床の内装を復旧する必要がある場合は、クッションフロアで復旧します。

第四段階:ユニットバスのパネル貼り

内装復旧業者の作業終了後に、パネル専門業者が3階の住戸に入ります。

ユニットバスの天井に木材で下地を組んで、パネルを貼り付けます。

換気扇がある場合は、換気扇の部分も開口しておいて、後から換気扇も取り付けて使えるようにします。

これで内装復旧作業も全て完了となります。

費用について

では、気になる費用です。

部屋のタイプによって若干変わりますが、標準的なケースで税抜きの金額を申し上げますと、内装業者、配管業者、パネル業者の合計で62万円です。

これにはスラブ下配管をすべて取り替えて、立管との接続部も取り替えて、内装も完全に復旧するところまで含まれています。

慌てて選んだ施工業者に100万円や150万円といった金額を請求されたりすることを考えれば、適正な価格といえます。

メリットとデメリット

この方式のメリットをまとめましょう。

管理組合にとっては、まず緊急時に足元を見られて高額請求されるリスクを避けられます。事前に業者を確保して価格も決めておくわけですから安心です。

それから、一斉更新するだけの予算がなくても、漏水が起きた都度、少しずつ配管を新しくしていけます。結果的に、長期的には建物全体の配管が更新されていくわけです。

無駄に高い工事費を払わずに済むので、修繕積立金の値上げを抑えられ、住民の方々にとってもメリットとなります。

ただし、デメリットもあります。

漏水が起きるたびに、その上の階の方々は排水制限がかかります。

工事中は水回りの使用に制限が出ますから、不便なのは確かです。

それから、スラブを壊す作業がありますので、騒音の問題もあります。 これらについては、管理組合から住民の皆さんにしっかり説明して、理解と協力を得る必要があります。

 

今回ご紹介した事例は、積立金不足で一斉更新ができないけれど、配管の老朽化は待ったなし、という状況に直面している管理組合にとって、一つの現実的な選択肢だと思います。

もちろん、これがすべてのマンションに当てはまるわけではありません。

建物の構造や配管の配置、住民の方々の状況によって、最適な方法は変わってきます。

ただ、「お金がないから何もできない」と諦めるのではなく、「今できることから始める」という発想の転換が、結果的にマンション全体を守り100年マンションを目指すことにつながります。

スラブ下の配管で漏水が始まっているけれど、積立金不足でどうしたらいいか分からないという管理組合の方がいらっしゃいましたら、配管保全センターにお気軽にお問合せください。
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