2025年10月24日
この記事のカテゴリー : 排水管の保全

経年劣化によってマンションのいたるところで、このスラブ下の排水管から漏水が頻発しはじめたら、本来は修繕積立金を使って、一斉に全戸のスラブ下配管を取替えてしまうのが理想ではあります。
ですが、多くのマンションでは、スラブ下の排水管を取替えたくても、修繕積立金不足により、一斉更新できないという問題に直面しています。
そのまま放っておくと、漏水だらけのマンションになってスラム化してしまうリスクが高まることになります。
今回は、まさしくそのような状態に陥りそうになっていた築50年前後の250世帯のマンションの実録をお届けします。
どのようにして危機的状況を乗り切っているのか、組合での話し合いから、具体的な工事の内容や費用までお話しします。
同じような悩みを抱えている理事会の方には、とても参考になる内容ですので、ぜひ最後までご覧ください。
ここで重要なのは、このスラブ下配管は専有部ではなく共用部の扱いになるということです。
スラブ下ではなく、各階のスラブの上に排水管があるのであれば、専有部扱いとなり各区分所有者が責任を持って、各自自費で保全しなければなりませんが、このマンションではスラブ下に排水管があるため、管理組合が修繕積立金を使って保全する必要があるということになります。
ところが、このマンションでは、他の多くのマンションと同様に修繕積立金が十分ではありませんでした。
大規模修繕の費用も年々、すごい勢いで値上がりしていますし、窓サッシの交換等、いろいろな修繕を行う必要がある中、全戸のスラブ下配管を修繕積立金を使って一斉更新する資金的な余裕はありません。
かといって、毎月のようにスラブ下配管からの漏水が発生しており、大きな問題となっていました。
一つ目は、工事に住民の協力が必要だということです。例えば4階で漏水が起きた場合、実際の工事は3階の天井裏で行います。
ですから、3階と4階の両方の住民の協力が必要になります。
さらに、スラブ下配管と立管の接続部を取り替えるとなると、4階より上の階の住民は工事中、水が使えなくなります。排水ができなくなるということです。
二つ目は、スラブ下配管と排水管の立管との接続部を取り替えるには、3階と4階の間のスラブ、つまりコンクリートの床を壊す必要があります。
これがかなりの騒音になり、その工事を行う系統だけでなく多くの住民に迷惑をかけることになります。
そして三つ目、これが一番重要とも言えるのですが、漏水が起きたらすぐに対応してくれる業者を予め確保しておく必要があるということです。
なぜかというと、漏水は緊急事態ですから、その場で業者を探すと足元を見られます。言い値で請求されてしまうということです。
漏水の都度、その住戸のスラブ下配管と立管を取替えるとなると、相見積を取っている余裕もなく、場合によっては100万円、150万円といった高額な費用を請求されることもありえます。
皆さんから集めた限りある修繕積立金ですから、そんな計画性のないもったいない使い方はできないですよね。
一つ目の領域の対応業者としては、漏水が起きたらすぐに駆けつけてくれる内装復旧業者です。
スラブ下の配管から漏水すると、下の階には雑汚水が天井から雨が降るように漏れてきます。放っておくと、天井、壁、床、家財道具が水浸しになるなどの損害が広がり、臭いも部屋中に充満してしまいますので、一刻も早い対応が必要となります。内装復旧業者は漏水が広がらないように応急処置をしてくれます。
業者の選定条件としては、マンションから近いところに事務所があり、かつ、リーズナブルな費用で工事をしてくれることです。
配管工事も対応してくれるのが理想ですが、両方のスキルを兼ね添えていて、かつ、マンションの近くという条件を満たす業者が見つからなかったので、配管業者は別で手配することとしました。
次に、二つ目の領域の対応業者ですが、スラブ下配管と立管との接続部の配管を取り替える配管業者です。
トイレの天井裏、洗面所の天井裏、ユニットバスの天井裏のスラブ下配管、それから立管との接続部の配管を1日で迅速に取替えるには、熟練のスキルと実績が必要となります。
妥当な費用で対応してくれる業者はすぐに見つかるものではないので、予め確保しておく必要があります。
三つ目の領域の業者は、ユニットバスの天井にパネルを貼って復旧してくれる専門業者です。
ユニットバスの天井裏にあるスラブ下配管を取替えるには、かなり広い範囲でユニットバスの天井裏を開けることになり、通常はユニットバス全体を解体しなくてはいけません。
ユニットバスを丸ごと取替える場合、最低でも50万円程度の追加費用が必要となります。
専門のパネル業者なら、丸ごと取替えなくても、広く開けた天井にパネルを貼ることで復旧することができます。
ということで、三つの領域での対応業者を確保しました。
では、実際の工事の流れを説明します。対応する工程は大きく4つの段階に分かれます。
それから、後日、配管業者がスラブ下の配管取替えができるように、トイレ、洗面所、ユニットバスの天井を開けます。
ユニットバスの天井は、左右に10センチ程度幅を残して開口します。
開けた後はプラスチック製のベニヤ板で仮に塞いでおきます。
まず4階から上の階の各住戸の水道メーターのバルブを閉めて水を使えないようにします。
これは、既存の立管を取り外している間に、4階から上の階の住戸が誤って排水して漏水被害が広がってしまうのを防ぐためです。
止水している間に、鋳鉄管製の3階の天井裏のスラブ下配管と、立管との接続部分の配管を耐火VP管に交換します。
なお、トイレについては、4階のトイレの便器を外して、鉛管を取り除き、耐火VPに取替えます。
3階の天井裏に配管された古い鉛管を切断する際に、鉛管は柔らかいために変形してしまうことがあり、そのままだと耐火VP管にしっかり接続されずに、漏水が発生する可能性があるからです。
トイレ以外のスラブを貫通する配管は塩ビ管で、これらは状態がいいので取替えずそのまま使います。
工事が終わったら、天井はプラスチックのベニヤ板などで仮に復旧しておきます。
また、スラブ下配管と立管の接続部を取替えるには、3階と4階の間の立管のまわりのスラブを壊す必要があります。
4階の立管の近くにガスメーターがあって邪魔になるため、ガスメーターを取り外しての作業となります。
作業中に誤って、4階より上の住戸が排水しないように、管理組合から事前にしっかりお知らせすることも重要です。
今回ご紹介した事例は、積立金不足で一斉更新ができないけれど、配管の老朽化は待ったなし、という状況に直面している管理組合にとって、一つの現実的な選択肢だと思います。 もちろん、これがすべてのマンションに当てはまるわけではありません。 建物の構造や配管の配置、住民の方々の状況によって、最適な方法は変わってきます。 ただ、「お金がないから何もできない」と諦めるのではなく、「今できることから始める」という発想の転換が、結果的にマンション全体を守り100年マンションを目指すことにつながります。 スラブ下の配管で漏水が始まっているけれど、積立金不足でどうしたらいいか分からないという管理組合の方がいらっしゃいましたら、配管保全センターにお気軽にお問合せください。
