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「超高額な配管工事の議案書」が出された際の対応マニュアル
第3部 総会可決後・契約後編 白紙に戻す「逆転のウルトラC」

2025年12月3日
この記事のカテゴリー : 修繕積立金・専有部の取り扱い

前回までの投稿記事で、「総会当日までの立ち回り方」についてお話ししました。

しかし、現実は非情です。「気がついた時には、もう総会が終わっていた」 「必死に反対運動をしたけれど、管理会社が集めた『委任状』の数に押し切られ、可決されてしまった」

今、この投稿記事をご覧の方の中には、そんな悔しい思いをされている方も多いのではないでしょうか。

目の前で、2億円、3億円という自分たちの修繕積立金が、不当な工事に使われることが決まってしまった。

理事長や管理会社の担当者は、「これで決まりですね」と涼しい顔をしている。

「もう終わりだ」 「決まってしまったことは覆せない」 そう思って、あきらめてるのではないでしょうか?

いいえ、ひっくり返せる可能性はゼロではありません。ここからが本当の勝負です。

実は、区分所有法や民法の仕組みをうまく使えば、「総会で可決」された後でも、ちゃぶ台をひっくり返すことは十分に可能です。

むしろ、可決されたことによって、相手に油断が生まれている時こそ、最大のチャンスかもしれません。

シリーズ最終回は、「総会で可決されてしまったけれど、まだ契約のハンコは押していない段階」 そして、 「最悪の場合、業者と工事契約を結んでしまった後の段階」 この2つの状況から、ノーダメージ、あるいは最小限のダメージで、皆さんの資産を守り抜くことができる方法をお話します。

キーワードは、「法的リスクの通告」と「損切りの経済学」です。

それでは、総会が終わった直後、契約書にサインするまでのわずかな期間に打つべき、最強の一手から見ていきましょう。

第2フェーズ:総会で可決されてしまった「後」のアクション

ここで取るべきアクションは、内容証明郵便を使って、理事会に「法的リスク」を通告することです。

ここで、皆さんはこう思うかもしれません。 「理事さんたちも同じ住民で、素人なんだから、管理会社に騙されているだけで、彼らを責めるのは可哀想だ」と。

あるいは、理事側から「素人のあなたが持ってきた安い見積もりなんて、条件も違うし信用できない。だから契約したんだ」と言い逃れされるのではないか、と。

大丈夫です。 実は、状況はフェーズ1(総会前)よりも有利になっています。

なぜなら、フェーズ1では時間がなくて間に合わなかった「他社の見積もり」や「専門家の査定書」が、総会後の今、ついに手元に届くタイミングだからです。

フェーズ1では「安くなるかもしれない」という「可能性」の話しかできませんでした。

しかし今、あなたの手元には「1億円安くなる」という「確定した証拠」があります。 これを使って、理事会に「法的リスク」を通告し、彼らの足を止めさせるのです。

ステップ1:「素人だから」を封じるロジック

ちなみに、裁判になったとして、日本の裁判所は、管理組合の役員に対して甘い傾向があると言わざるを得ないと思っています。

「素人が一生懸命やった結果なら、多少のミスがあっても責任は問わない」という判決が出ることも少なくありません。

つまり、実際に裁判をして勝てるかどうかは、やってみないとわからない部分があります。

しかし、ここでの目的は「裁判で勝つこと」ではありません。

「裁判になるかもしれないという強烈なプレッシャー」を与えて、契約のハンコを押させないこと。これが主目的です。

もし、誰も何も言わずに契約してしまったら、理事たちは「知らなかった」で済まされます。

しかし、あなたが「これは相場の倍額です。証拠はこれです」と警告した後に契約したら、どうなるでしょうか。

それはもう「騙された」のではなく、「警告を無視して、あえて損害を出した(重過失)」という扱いになります。

こうなると、役員賠償責任保険も下りない可能性が高くなります。

手紙で伝えるべきメッセージは、「もしこの警告を無視して契約を強行し、組合に損害が出たら、私たちはあなたたち理事個人を訴えます。

裁判で負けたら、あなたの退職金や老後の貯金から、数千万円の賠償金を払うことになりますよ。

勝てるか負けるかわからない裁判のリスクを、あなたは背負えますか?」 普通の感覚を持った理事なら、このリスクを負ってまで、業者と癒着した理事長と心中したいとは思いません。

「おい、ちょっと待て。俺の退職金が飛ぶのは嫌だぞ」とひるみ、契約ストップがかかる可能性が高くなります。

ステップ2:「根拠があいまい」を封じる証拠

次に、「あなたの見積もりは信用できない」という反論への対策です。

素人が自分で「高いはずだ」と言っても言いくるめられます。

そこで突きつけるべきは、「利害関係のない第三者の専門家による査定書(セカンドオピニオン)」です。

私たち配管保全センターのような専門会社に依頼し、「市場価格から著しく乖離している」というプロの評価をもらってください。

•「第三者の専門家による査定」(客観性)

•「弁護士」の名前(権威性)

•「警告した」という事実(証拠)

この3つを揃えて突きつけるのです。これで「根拠があいまいだ」とは言えなくなってきます。

ステップ3:諦めずに仲間を増やす(地上戦)

そして、これが一番重要と思うのですが内容証明を送るのと並行して、住民への声かけを絶対に止めないことです。

たった一人で手紙を送っても、「クレーマーが何か言ってる」と握りつぶされる可能性があります。

しかし、あなたが諦めずに戸別訪問を続け、 「ついに証拠の見積もりが届きました! やっぱり1億円も安くなることが確定しました!」 と言って回れば、フェーズ1よりも説得力は格段に上がります。

「あそこの部屋の人も、その隣の人も、この工事はおかしいと言っています」 という状況を作ったらどうでしょう。

理事会にとって一番怖いのは、法律論よりも「住民の多数が反対している」という事実です。

「総会では委任状で勝ったかもしれないが、リアルな住民たちの空気は完全に『反対』だ」 そう感じさせることができれば、理事たちは怖くて契約に進めなくなります。

「法的リスク(恐怖)」と「住民の声(数)」。 この2つで挟み撃ちにすることで、暴走する理事会を止めるということです。

でも、残念ながら、この投稿記事を見るのが一足遅かった、あるいは理事会が警告を無視して強引に契約してしまった、という場合も十分あります。

「契約書にハンコが押されてしまった。もうどうしようもない」 そう思われるかもしれません。

でも、あきらめないでください。最後の切り札、第3フェーズに入りましょう。

第3フェーズ:業者と契約してしまった「後」のアクション

この第3フェーズというのは、「もうハンコを押してしまった。工事契約済みだ」という状況です。

一見、これは最悪のケースに見えますが、実はここからの逆転も不可能ではありません。

皆さん、民法の強力なルールをご存じでしょうか。

民法641条には、「注文者は、仕事が完成しない間は、いつでも損害を賠償して契約を解除できる」と書かれています。

つまり、理由がなくても、お金さえ払えば一方的に解約できるということです。

ここで、「違約金を払うなんてもったいない」「契約したから仕方ない」と思ってはいけません。

冷静に計算してみましょう。 例えば、2億円で契約してしまった工事。適正相場は1億円だとします。

今すぐ解約すると、違約金として契約額の20%、つまり4000万円を請求されるかもしれません。

しかし、4000万円払って解約し、その後、1億円の適正価格で優良業者に発注し直せばどうなるでしょうか。

違約金4000万と、工事費1億円。合計で1億4000万円です。

当初の契約通り2億円払うよりも、6000万円も安く済むのです。

このようなことを、投資の世界では「損切り」と言いますね。「契約したから仕方ない」と諦めて2億円払うのが、一番の損失です。

「違約金を払ってでも解約すべきだ」という経済合理性は、誰の目にも明らかといえます。

しかし、癒着している今の理事会は、自分たちで契約解除しようとはしません。

自分たちのミスを認めることになるからです。 そこで最終手段です。

区分所有者の「5分の1」の署名を集め、臨時総会を招集してください。

これはクーデターのように聞こえるかもしれませんが、法律で認められた正当な権利です。

議題は3つ。「現理事全員の解任」、「新理事の選任」、そして「不当契約の解除および違約金支払いの承認」です。

「このままでは一戸あたり100万円損します。でも今なら、違約金を払っても60万円取り戻せます。今の理事を解任して、やり直しましょう」 こう説明して回れば、5分の1の署名が集まる可能性は高まります。

まとめ:あなたが動けば、マンションは変わる

いかがでしたでしょうか。 今回の内容を整理します。

•総会前: 相見積もり(金抜き見積書)を取る。弁護士チェックを受けた意見書を全戸配布して、その後、全戸をまわって説明をし、仲間を増やす。

•総会当日:キラー質問で総会での否決を目指す。あるいは、プロセス不備を突いて継続審議を求める。

•契約前なら:遅れて届いた決定的な証拠を使って「第三者の専門家による査定」と弁護士名を入れた内容証明で警告し、「知らなかった」という言い逃れを封じて契約を止める。

•契約後なら: 「違約金を払ってでも解約する方が得」という計算を示し、5分の1署名で理事を解任して契約解除する。

どの段階でも、有効な手立ては残されています。

最も怖いのは、皆さんが「仕方ない」「もう決まったことだ」とあきらめてしまうことです。

悪質なコンサルタントや業者は、皆さんのその「諦め」と「無知」を狙っています。 「一人でやるのは怖い」「見積もりの妥当性が分からない」「専門家の査定なんてどこに頼めばいいかわからない」。

そんな時は、私たち配管保全センターにご相談ください。

現状の見積書をお送りいただければ、それが適正かどうか、プロの視点でアドバイスさせていただきます。

100万円単位の損害を防ぐために必要なのは、特別な権力ではありません。

「正しい知識」と「行動する勇気」、そして、「弁護士相談という保険」です。

もし、万が一、今回の阻止が叶わなかったとしても、決して無駄ではありません。

なぜなら、あなたの行動によって、「このままこの管理会社や理事会に修繕を任せていると大変なことになる」という危機意識を、他の住民の方たちと共有できたからです。

この「気づき」こそが、将来的な「管理会社のリプレース」や、癒着の温床となっている「長期政権理事会の解体」につながる第一歩になります。

今回声を上げなければ、次回以降も同じようにボッタクられ続けるだけです。しかし、あなたが動いたことで、その負の連鎖を断ち切るきっかけが生まれます。

ですから、結果を恐れずに動いてください。その行動自体が、マンションにとっての大きな「成果」なのです。

この投稿記事が、「超高額な配管工事の議案書」が出された際の対応マニュアルとして、あなたの大切なマンションを守る一助となれば大変嬉しく思います。
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